直前の授業の内容に腑に落ちないところがあって、休み時間に入ってからも考え込んでいた。
気になることは、すぐに処理をしないと気持ちが悪い。
(…あ!)
恐らく正解に思い至り、反射的に顔をあげる。思いついたことが正しいことをすぐに確かめたくて、後ろを振り向く。
「なあ!花井…っ」
後ろの席に座っているはずの花井に、勢いこんで話し掛けたが、振り返った視線の先に花井の姿はなく。
行き場のない勢いのみが取り残され、バツが悪い。
視線を下げると、花井が机に突っ伏して眠っていた。
八つ当たりだという自覚はあるが、平和そうな後頭部に腹が立つ。
形の良い坊主頭をはたいてやりたい衝動を、さすがにどうにか押さえ込む。
宙にういたままの手をごまかそうと、机の上に置いてあった花井のメガネに手を伸ばした。
メガネをてのひらに乗せ、ふと頭をもたげた好奇心に逆らわず、そのメガネをかけてみた。
途端、歪む視界に、けっこう度が入っているんだな、などとどうでもいい発見をした。
不意に、気配を感じ、頭を百八十度急転回させる。
見遣った教室の出入り口に焦点を合わせる直前、慣れない視界がアクロバティックに動いたせいで、軽い目眩を覚えた。
慌ててかけたままだったメガネを外す。
ほんの少しのあいだ、脳の揺れがおさまるのを待ってから、もう一度顔をあげる。
けれど、そこに予想した姿はなく、首を傾げた。
(三橋の気配がしたのに)
絶対の自信のもと、いるはずの姿を探して、しばらく目を泳がせるが、やはり見付けることができない。
(…勘が鈍ったか?)
「チッ」
無意識に舌打ちをして、時計を確かめる。
あと一分ほどで次の授業の教師がやってくるはずだ。
古典の教師は、異様に時間に正確で、必ずチャイムの鳴る三十秒前に教室に入ってくる。
再び背後を向くと、ちょうど花井が身じろぎをし、頭をあげようと動いた。
それに気付かなかったふりをして、花井の頭を軽く小突く。
「おい、授業はじまるぞ」
首に力の入っていなかった花井の頭がニュートンの運動方程式に従い、机に打ちつけられた。
「うう…」
寝起きで頭が働いていないのか、花井は低く唸っただけだった。
「ほら、メガネ」
額を押さえながら顔を上げた花井に、持っていたメガネを手渡す。
「ん?サンキュー」
お人好しにも花井がお礼なんかを口にした時、古典の教師が教室に入ってきた。
前を向き、教科書とノートの用意をする。机の上が古典授業仕様になった瞬間、チャイムが鳴った。
なんとなく、さっき花井の頭を小突いた右手を眺める。
自分で思っているよりも、実際イラついているようだった。
けれど、自分が何に腹を立てているのかがわからない。
花井に、では当然ない。三橋に?
いや、自分に。それが一番近いような気がした。
自分の感情を掴めもしない自身に、さらにイラ立つ。
手を握りしめて、無理矢理感情を抑えつける。
いまは、まだそれでいい。そんな考えが頭をよぎった。
その思考の意味もわからなかった。
**
急にとか言いましたが、もしかしたら、私がメガネ阿部を描けと言ったのかもしれない。
そんなことをふと思い出しました。
覚えてないけど。
どうでもいいですが、まだ続いたり…
to M ← re → to
S