「いいか!おまえら、これは部誌なんだよ!!」
机越しに田島と三橋を座らせて向かい合い、少し強めに語尾に力を入れた。
一度言葉を切って、ふたりの様子を見渡す。見る限り、話を聞いていないわけではないのに、伝わっている気が全くしない。
こいつらと話ている時の心情を一言で表せば、これは明らかに「無力感」だ。
何を言ってものれんに腕押しで、こいつらを言葉でコントロールできるなんて芸当、到底無理に決まっている。
大きく息を吐き出して、もう一度口を開く。

「部誌っていうのは、毎日の部活の記録を書くもので、先週はお前らふたりが当番だったよな」
「おー」
「は、い!」
一応、返事は返ってくる。聞いてはいるのだ。
「でな、三橋、部誌には部活のことを書いてくれよ。休み時間のことじゃなくて」
「う、」
「だって、おととい雨だったじゃん!書くことねーよ!」
三橋が何かを言う前に、田島がその言葉を遮る。
「書くことなかったら、適当にソレナリに書いておくんだよ」
オレはいったい何の指導をしているのか、と不意に情けなくなる。
「はあ?」
田島は、意味がわからない、という表情で首を傾げる。
「雨だから筋トレだったとか、やったことの内容を書けばいいだろ!」
半ばやけくそに答えたから、自然と語調が荒れてしまった。けれど、田島は気にした風もなく、頭の後ろで手を組んだ。
「えー。そんなのつまんないじゃん!」
つまんないってなんだ。部誌に誰が面白さを求めたよ?
言いたいことは山ほどあったがこらえて、それならば、と矛先を変える。
「田島、お前はなお悪い!なんで部誌にお前んチの晩飯の様子を書くんだよ?!部活どころか、学校も関係ねーじゃんか!」
「ウチのばーちゃんのコロッケ、すげーうめーんだぜ!!」
「だから…」
「ぅ、え!!」
あまりにも噛み合わない会話に辟易した時、それまで黙っていた三橋が思いきり田島の方を向いた。
「三橋…?」
何事かと訝しむが、三橋はそれ以上喋らない。ただ、隣にいる田島を凝視していた。
ふと田島が三橋を見返す。
「なんだ、三橋も食べたいのか?」
言われて、三橋は一瞬固まりかけたが、それでもハッキリと頷いた。
三橋は、案外欲望に素直というか、欲しいものを欲しいと言える強さを備えている。
「よし、いいぜー!今度ウチ来いよ!花井も来るよな?」
疑問形に見せかけた断定で、田島は強引に話を進める。
もう何の話をしていたのかわからない。
(だからこいつら嫌なんだ…)
どっと倦怠感が襲い、無力感だけが残る。
それでも元来の責任感の強さ故、一言だけでも言っておかねば、気が済まなかった。

「あー!もうっ!お前ら!部誌は交換日記じゃねーんだからな!!」

言い終えると何故か、辺りを静寂が支配した。
ふたりを見れば、ポカンとこっちを見ている。
充分な時間を見つめ合い、やっと田島が立ち上がる。

「そんなこと、知ってるよ!花井、大丈夫かぁ?」
熱でも計ろうとしたのか、伸ばされた田島の手を咄嗟に叩き落とす。
三橋までもが、心配そうな顔でオレを見上げていた。

(ああ、ほんとこいつら嫌だ…)
オレは初めてキャプテンの責務を放棄した。



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1月のインテで配ったペーパーの再利用です。
最後に言う事じゃないですね…。
最後までおつき合いありがとうございました!



to Sre