ゆめを 見ていた。
ゆめの中で オレは ボールを投げていた。
かべに向かって ボールを投げていた。
投げたボールは 迷いなく戻ってくる。
戻ってきたボールは 投げ返さなければいけない。
まるでえいえんに続くかのような キャッチボール。
急に うでが重くなる。
左うでが ずしりと重い。動かない。
それでも投げずにはいられなくて 投げたボールは 動かない左うでにひっぱられて すっとんきょうな方向にとんでいった。
かべに当たらなかった ボールは もう戻ってこない。
ボールが返ってこなくて オレはどうしていいのかわからなくなった。
ただ 左うでが 重い。
手の中にボールがなくなり オレは 落ち着かなくなる。
不安定に ふらふらと ぐらぐらとしていた。
左うでだけが ボールよりもたしかな重みで オレをつないでいた。
そのあたたかさが 心地良かった。
目が覚めると 左半身がまひしたように 動かない。
左手には感覚がなく 動かそうとしても ピクリともしない。
不安になって とび起きようとしたけれど それさえも ぬいつけられた 左うでにじゃまされて できなかった。
仕方がないから 首だけを動かして左側を見る。
まず視界一面に広がったのは 色のうすい 方々へ散らばったくせっ毛。
オレは その髪がとてもやわらかいことを 知っている。
れん
声がかすれて うまく呼べない。
レンは オレの左うでにしがみついて 眠っていた。
左うでは動かない。
眠っているとは思えないような強い力で がっしりとつかまれていた。
ほんとうは レンをつかまえておきたいのは オレのほうなのに。
いつでも 先に伸ばされる手に 甘えてしまう。
レンには オレが必要なのだと かんちがいしてしまう。
もしかしたら ここにいるレンも 実は オレのかってなそうぞうなのかもしれない。
まだ ゆめを見ているだけなのかもしれないと ハタと気付く。
オレは レンが消えてしまわないように 左うでを動かさないように気を付けて 右手を伸ばした。
おそるおそるふれたレンの髪の毛は きおくと変わらずやわらかい。そして あったかかった。
それまで聞こえなかったレンの寝息が聞こえるようになった。
髪が寝息に合わせて上下している。
ああ レンだ
よかった ここにいる
髪をくしゃりとまぜれば 眠ったままのレンが 少し動いて 顔が見えた。
その表情が 笑っている ように見えた。
そのしゅんかん ずっと張りつめていたオレの糸が 切れた。
こんどは 安心して 眠りにおちる。
まぶたがくっついてしまう直前まで レンを見ていた。
ふわふわとした いしきで ふと考える。
明日起きたら 左うでは めちゃくちゃしびれてるだろうな
しびれるっていう感覚は ふしぎだ。
痛いのともかゆいのとも違う。
くすぐったいのに近いけれど それともやっぱり違う。
もどかしい というのが 一番似ている気がした。
レンと一緒にいるときの 気持ちに似ていた。
明日もきっと 左うでのしびれは すぐに 全身に広がるんだろう。
左うでが感覚をとりもどしても むねにいつまでもくすぶる。
**
ゆめを 見ていた。
こんな時間にごめんなさいね!どうしてもって言って聞かなくて。
気にしないで、修悟も喜ぶわ。ずっと運転してきたんでしょう?大丈夫?疲れたでしょう。
ありがとう。さすがに少し疲れたわね。
二人で来たのね?
旦那の仕事が急に入っちゃって、こちらへお邪魔するのはまた今度にしようと思ったんだけど、廉が絶対行くんだって泣いて大変だったのよ。仕方ないから旦那置いてきたわ。
あらあら。じゃあ、廉くんは泣き疲れね。
車の中じゃずっと起きてたんだけどねえ。修ちゃんの顔見て安心したのかしら。
あー!廉くん可愛くていいわねー!
とんでもない!わがままで困るわ、甘やかすから。修ちゃんはしっかりしてて羨ましいわ。
うちのは、ただガサツなだけよー。
そんなことないわよ。あの廉がこんなに懐いて、ほんとにビックリだわ。いつもありがとう。
あら、それはお互い様じゃない。
うちの子、甘えたなくせに変に神経質で、誰か他に人がいると眠れないのよ。親とだって一緒に寝られないんだから。
この子がひとの布団に潜りこむのなんて初めて見たわ。よっぽど修ちゃんは特別なのねえ。
遠くでざわざわとさわがしく ときどき明るい笑い声がまざる。
ぼんやりと ひどく しあわせだった。
しあわせな ゆめを 見ていた。
**
イメージ小4くらいで。
子叶視点で書いたので、漢字変換を選びました。読みにくかったら、すみません。
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