小学生のようなはしゃいだ足音がすると思っていた。
子どもは雨も楽しめるのかと感心する。自分が子どもの頃はどうだっただろうかと、少し考えた。
思い出せないままに、横を通り抜けた車が撥ねた水が靴にかかり、意識はそっちに移行した。
濡れた靴は、幸い中まで水が染みることはなかったが、やっぱり雨なんて忌々しいだけだと舌打ちをする。
靴に気を取られ、俯いていたから前方の人影に気付くのが遅れた。
ばしゃばしゃばしゃ
子どものような足音が、ぱたと途切れる。
思いがけず、名前を呼ばれ、顔を上げた。
そこに見た光景に絶句する。
!?
「おまっ!(おまえ)」
「たじ!(田島)」
「ばっ…なぁっ?!(バカか!!なにやってんだよ?!)」
動揺して、意味のある文章どころか、単語さえ発することができなかった。
とりあえず喋ることを諦めて、立ちつくす。
「うはは!阿部なに言ってんだー?」
ばしゃばしゃ
笑った田島が二歩跳ねるように駆けて近づく。
目の前に立った田島を睨みつけた。
「おまえ、何やってんだよ?!傘は?」
深呼吸をして落ち着いて、今度はきちんと意味のある文が口から滑り出た。
あまりに非常識な様相の田島に対して、こんな常識的な質問が意味を持つのかという点に関しては、疑問だったが。
「傘?持ってこなかった。朝降ってなかったじゃん!」
昨日見た天気予報は、100%の降水確率だった。
いつもは曖昧に言葉を濁す気象予報士が妙に胸を張って「明日は雨です、」と誇らしげに語っていた。
確かに朝の時点では、雨は降っていなかった。それでも、今にも降り出しそうなどんよりとした空模様だった。
最近雨続きで、グラウンドの水が捌けることはなく、朝練もなかった。
午前のうちに雨は降り出し、それからは止むことなく、鬱々と降り続いていた。当然、放課後の練習も中止になった。
今頃あの気象予報士は勝ち誇っているに違いない。
「…あ、そう」
言いたいことは山ほどあったが、今ここで傘を持っていないことについてどうこう言ったところで、問題は何ひとつ解決しない。
とりあえず、さっさとこのアホを保護しなければ。風邪でもひかれたら、たまったもんじゃない。
鞄からタオルを取り出し、田島に差し出す。
「ほら、これで拭いて傘入れよ。風邪ひくだろ。送ってってやる」