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毎週日曜日の練習には、特別メニューが追加される。
「今日のロードワーク当番は田島君ね!はい、クジ引いてちょうだい!」
夕方の休憩が終わる頃、いつものように監督がクジ引きの箱を取り出した。
「はーい!」
当番と名指しされた田島が元気よく返事をして、箱に手をつっこむ。
マネージャーがお菓子の空き箱を再利用して作ったクジ箱の中には、1〜10までの数字が書かれた紙が入っている。
手に触れた十枚の紙の中から、田島は迷うことなくパッと一枚を選ぶ。
「ほらねー!」
取り出した紙を確認した田島が、みんなにその番号を知らせるために手で作ったサインは、あたかもVサインのように見えた。
上機嫌な田島を余所に、花井がそっと息を吐く。選ばれなくて良かったと、こっそり安堵した。
ロードワークに行くのが嫌なわけではない。ただ、田島を連れて行くとなると、余計な気苦労が増えることは目に見えていた。できれば、今日は行きたくなかった。
花井は、重責を免れたと同時に、九分の一の確立だった大役を引き当てたというか、引き当てられてしまったクラスメイトの様子を窺う。
阿部は、なんだか微妙な表情をしていた。
その表情は、嫌がっているのでも喜んでいるのでもなく、諦めとも期待とも違う、その表情に近い感情を探すとしたら、それは、悔しい、ではないだろうか。
悔しい?花井は、自分で出した結論に疑問符を付ける。
それは、あまりにもこの場に似つかわしくない感情で、不思議に思った。
視界の隅で阿部が歩き出す。花井の思考を遮るのに充分な田島の大声が響いた。
「阿部ー!な!言っただろ!」
そう言って手招きをする田島に、阿部は苦く笑った。
日曜日の特別メニューとは、アイちゃんの散歩を兼ねたロードワーク。
平日は、監督がバイト先から直接グラウンドへ来るため、愛犬を連れてこれないが、朝から練習のある日曜には、大抵連れてきて、
マネージャーが時間を見つけて構っていることが多かった。
それを横目で見ていて羨ましがった部員から、散歩に行ってもいいですか?という意見が出たのをきっかけに、練習メニューに組み込まれた。
毎週一人ずつ、散歩当番が持ち回りで回ってくることになっている。
当番の者がクジを引き、背番号を引かれた者と二人一組で外に出る。
二人一組なのは、散歩を兼ねているため一人ではトレーニング効率が悪いことや、部員内のコミュニケーション強化など、細かい理由は色々あるが、
一番大きな理由は、犬が苦手な三橋のための救済措置だった。
阿部が篠岡からシャベルやビニール袋などが入っているお散歩セットを受け取った。
「いってらっしゃい、気をつけてね」
笑顔で送り出す篠岡に、おお、と答えて、背を向ける。
グラウンドの出入り口で、田島は子犬の首輪にリードを付けていた。
阿部が近づくと、田島は振り返り、笑う。
「よっし!いこーぜ!」
つられて、阿部も笑った。
「おお」