
「はよー」
「おー!阿部!はよ!!」
「今日も寒みーな」
「おう!来るとき霜すごかったぜー!バリバリ!あれキモチーよな!」
本当に寒いと思っているのか疑いたくなるほど、田島は元気だ。
「なーなー!見ろよ!チョー息白い!」
田島が宙に向けて、思い切り息を吹き出した。
そう言われて見れば、田島の前の空気は面白いように白く膨張する。
それから田島はおもむろに右の指を二本、自分の口の前に当てた。
人差し指と中指で何かを挟むようにして口から白い息を吐くその仕草は、スタンダードに思い起こさせるものがあった。
ぷっ
「タバコかよ?」
「タバコー?ちげーよ!忍者!」
「忍者ぁ……?」
「忍者ってケムリ吐くだろ!」
「……吐くっけ?」
「忍法!ケムリにんげん!」
「うはははは!!」
言ってることはめちゃくちゃなのに、自信満々な田島がツボに入った。
朝っぱらから腹筋を酷使する羽目に陥る。
笑いきってから息を整えた。
「とりあえず、術の名前としては失格だな」
小さくこぼした言葉は、田島に届く前に白く消えた。