生まれて初めてラブレターってやつをもらった。
これまでラブレターってのはオレの中で、例えば洗濯板とか、ポケベルとか、昔はあったけど今は使ってないものと同じ部類に入っていた。
だから、もらったときには驚いた。
マンガみたいに、ちゃんとハートのシールで封をされたそれは紛うこと無くラブレターで、開けた中身だってドッキリでもなく、縦にしても横にしてもれっきとしたラブレターだった。
顔を真っ赤にしてこれを差し出した女の子は、その様子がすごく可愛かった。
中には、オレのことをどれだけ好きかがビッシリと書かれている。
もちろん、彼女の望むように付き合うことはできないけれど。
手紙という形態が新鮮で、これだけ具体的に好きだと書かれたら、ついクラリとしてしまう。
計算だとしても天然だとしても、この娘は相当賢い。
もらった手紙を隅々まで読む。
ここまで自分の気持ちを説明できるのがすごいと思う。
少し考える、
オレは阿部が好きだけど、どこをどう好きかなんて考えたことなかった。
そもそも、なんで好きになったんだっけ?
それだって思い出せない。
気がついたら、阿部を目で追ってて、いつの間にかこんなに好きになってた?
そんなことってあるかな。
とりあえず、もう少し考える、
じゃあ、阿部のどこが好きなんだろう。
意地っ張りなところ
マメだらけの手
すっげー野球を好きなところ
勝つために何をすべきか考えられるところ
器用そうに見えて実は不器用なところ
阿部を思い浮かべて、逆に好きじゃないところを探す方が難しいということに気付く。
ああ、怒りっぽいところは直した方がいいと思うけど。
きっとこれはもう好きになっちゃった後だからかもしれない。
阿部が笑うと、めちゃくちゃ幸せなんだ。
これはどう考えても恋だろう?それは間違いないんだけど……
「あれ?田島だ、どったの?考え事?珍しい」
考え込んでたら、後ろに人が立ったことに気づけなかった。慌てて振り向く。
「水谷!」
「ん?なにー?」
思わぬところから救いの手が伸びた。答えに行き詰まった時には、第三者の意見だ。
しかも水谷というのはこれ以上ない人選だった。
「あのさ、水谷は阿部のどこが好き?」
水谷は、唐突な質問にもあまり深く考えずに答えてくれる。
かといって、適当な答えなわけじゃなく、案外本質を突く。
「阿部?うーん、そうだねえ、いろんな意味で真っ直ぐなところかな」
うん、
「たまに理不尽だけど半分くらいは照れ隠しだし」
うん、
「けっこうかわいいとこあるよね」
そ!
「そう!…なん、だよ…な……」
ほんとは全力で同意したかったけど、この場合、水谷とオレが同じじゃ困るんだ。
ただの好きと恋の好きは違うだろう。
でも、どこが?
いよいよ深刻にはまりそうになったとき、あっけらかんとした声が思考を遮った。
「あっ!オレ早く帰んないとだった!今日カレーなんだよね」
水谷は弾かれたように、顔を上げると足早にドアへ向かう。
「おーサンキュー、じゃーなー」
「うん、バイバーイ」
鼻歌を歌い出しそうに浮かれた背中がドアの外へ消えるのを見送った。
まあ、カレーなら仕方ない。
カレーか、カレーはうまいよな。
「あっ!!」
思わず一人で叫んでいた。
思い出した!!
そうだ、カレーだ!
合宿の時に、カレーを作ったんだ。
阿部とオレは野菜を切る係で、ジャガイモの皮むきを終えて、ふと顔を上げたら、
阿部が泣いてた。
それを見た瞬間、下っ腹が思い切り収縮した。
その時はそれが何だか分からなくて、ただ困惑した。
阿部と、その手元のタマネギを交互に見て考えたけど、何が原因のどんな現象なのか自分の身体なのに結局分からなくて、気持ちが悪かった。
そうだ、それからだ、
それから目が自然と阿部を追って、後は坂を転げるように加速して、どんどん好きになっていった。
今なら分かる、あの衝動が何なのか。
阿部の泣き顔は、えろい。
ああ、オレってどこまでもソクブツテキ。
こんなの水谷にはさすがのオレでも言えないかも。
阿部には、
そうだな、手紙を書いて渡そうか?
オレからのラブレターを読む阿部を想像して、独り笑う。
まあ、それは冗談だとしても。
オレがどれだけ阿部を好きなのか、いつか、伝えよう。
2008-01-27
(ペーパー再録 2008-03-02)
>頂きましたリクエスト「田島は阿部の何がどんだけ好きなのか」より
どうもありがとうございます!お粗末様でした。