「まえから言おうと思ってたんだけど、」
ガチャンと音を立てて田島が自転車のスタンドを立てる。
「なにっ?」
鍵を抜きながら、器用に顔だけこっちに向けた。
「チャリ1分てさ、お前歩いたほうが早くないか?」
いつからか、朝は駅から歩く通学路を少し逸れて、田島の家に寄るのが阿部の日課になっていた。
ついでと言えるような位置ではないが、苦にはならない距離だった。
阿部が田島の家に着くと、田島は呼ぶ前に外に出てくる。そのタイミングは絶妙で、なんでわかるのだろうかと不思議に思うが、まだその疑問をぶつけたことはない。
自転車を携えて家の門から出てくる田島は、けれど、その自転車に跨ることはなく、阿部と肩を並べて学校まで歩く。
田島の家からは裏門のほうが近いので、裏門から入り、駐輪場に自転車を停め、朝練のある時にはグラウンドへ、ない時には昇降口へ向かう。
乗らない自転車を停める手間だってバカにならないと阿部は思う。この時間を考えれば、最初から歩いて来て真っ直ぐに目的地へ向かう方が早いんじゃないか。
まえから思ってはいたのだが、駐輪場で田島が自転車を停めるあいだ、いつもの様に待っていて、ふと、訊いてみたくなった。
田島は、イタズラが見つかった子供のように笑った。
「ひひ!やっぱそう思う?」
「やっぱって」
別に責めているわけではなかったが、分かっていたのか、と呆れる。
「まあ、チャリも便利だぜー」
「ふうん、そうか」
大抵、行き帰りを共にしていたが、たまに帰りが別になることもある。
そんなときには自転車があれば、早く帰れるのだろう。
阿部と一緒の時には、自転車の活躍の場はまったくなく、常に田島の横で引かれているだけだった。
最初のうちは、チャリ乗って帰れば、とも言っていたのだが、田島は笑って、歩く、とだけ言った。
「ほい、お待たせ!」
無事に自転車を置き終えた田島が出てきて間近でニッと笑う。
屋根の付いた駐輪場は、いまはまだまばらに埋まっているだけだったが、もう1時間もすれば、ここは壮観なほど自転車でいっぱいになる。
ふたりで並んでグラウンドへと歩き始めた。
歩きながら阿部と田島は、実に他愛のない会話を交わす。
昨日見たテレビの話や、面白い先生の話、小テストがあった科目とか情報交換もするが、最終的に話題は自然と野球のことばかりになり、それが可笑しくて阿部は少し笑う。
田島は、それを見て柔らかく笑った。
チャリがあれば、駐輪場まで阿部はつきあってくれる。
遠回りな分、長い時間阿部といれるだろ。
小細工なんてちっともガラじゃないけど、ない頭必死に絞るくらいは、一生懸命考えた。
どうすれば、もっと阿部に近づけるのかって。
最近は、いつもそればっか考えてる。
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HAPPY BIRTHDAY!! dear どん 2005
贈ったつもりがTOP絵になって返ってきたシンデレラストーリー(間違った使用例)